有楽町線辰巳駅から徒歩1分ほどの場所にカフェlalalaはあります。

 

店主の中澤照子さんは、2018年まで保護司を20年間務め、その功労が認められ天皇陛下から藍綬褒章が授与されました。そして引退後、みんなが集まることができる場所として『カフェlalala』をオープンされました。現在でもアドバイスがほしいと中澤さんのもとを訪れる人は後を絶ちません。保護司の活動とはどのようなものでしょうか。人の心に寄り添うこととはどのようなことなのかをお聞きしました。

 

■そもそも保護司とは

 

保護司とは、犯罪や非行をした人たちと定期的に面接を行い、更生を図るための指導をする非常勤の国家公務員のこと。保護司仲間からの推薦で決まることが多いといいます。

「なりたいと思ってもなれない人もいると思います。だから常に私たちは、保護司に向いているような人が周りにいないかなって探しています。地元でどういう動きをしているかとか、それにふさわしい人かなとか、いろいろな角度から見ています」

「相手の立場になれる人が少なくなってきた」と中澤さんは言います。人は見た目で判断されるとよく言われます。でも、見た目だけでは心の奥底を見抜くことはできないのだと思いました。

「泣いている裏側にどういうことがあるのかな、とか持っている言葉の中のどこに空洞があるのかということを見ていて、そこにスーッと入っていける。保護司はカウンセリングの資格を持っているわけではないですけれども、少しは生きたカウンセリングをしているんじゃないかと思いますね」

保護司は、犯罪を犯した人や非行少年少女の社会復帰を助けるとともに、安心して暮らせる地域社会づくりにも貢献する重要な役割を担っています。にもかかわらず、保護司法に基づき、法務大臣から委託を受けたボランティアであるといいます。

「一カ月の生活態度を聞いたり、もめごとはなかったか、悩みはないかだとか。最低3回くらい会うわけね。いろいろなことを聞きながら軌道修正していく。そして、毎月一回、報告書にして法務省へ提出します。無給ですが、活動費はあるという感じですね」と語る中澤さん。保護司を20年間続けてこられた理由は何でしょうか。

 

■子どもにとって家族はどういう役割?

 

担当する地域にもよりますが、中澤さんが担当した人のおよそ70%は20歳未満だったといいます。主な犯罪歴は窃盗や薬物使用。どのような家庭で子ども時代を過ごしてきたかというのは人それぞれですが、子どもにとって家族とはどのような役割を持っているのでしょうか。

「家族というのは、悪いことをしている子にとっては、都合の良いつながりだと思います。悪さをしても受け入れてくれるし、お腹が減ったって言えば、ご飯を作ってくれるわけだし。拒否しないでいつでも受け入れてくれる。だから綺麗に言えば『いつでも受け入れてくれる家族がいるから立ち直れる』と、よくきれいにまとめようとするけれど、本当に悪さをしているときの子たちにとって、家族はそんな存在ではない。ただ単に、都合のいい帰る場所だから」

「例えば、今こんなにまじめで、こんなに優しい人がどうして犯罪者になってしまったんだろうって……。そのところだけ切り取ると、『頑張ってほしい』と思う。だけど、そこまで来るまでの間にどれだけの人に嫌な思いをさせたり、泣かせたりしたかもしれないし。それを頭の中に擦り込まれてしまっている家族にしたらこんないい人だったんですよって言われたって、それは一時であって私たちは根こそぎあの子から嫌な思いをされたって思っているかもしれない」

 

■“誰も受け入れてくれない人たち”を受け入れる保護司の心境とは

 

「もう誰も受け入れてくれる人がいないし、誰も関わりたくないわけじゃない。そんな人がいるのは可哀そうじゃない。誰も応援してくれなくて、誰も味方になってくれなければ、最後の砦になれるかなって思うんだよね。たいした力がなくても。みんながそっぽ向いていても、そっぽ向かないおばさんがいるよって。それがやりがいなのかもしれないね」

「そういう子が、手間暇かけて、時間をかけて心を運んで、足運んでやっているうちに、どうにかこっちを向くようになって、心を許すようになったときにシメタと思う。こっちに心が向いてくれたなという時が喜びになりますね」

「どん底になっていたら、ほんのわずかな心配りとか愛情でも相手はすごく救われると思うじゃない。そういうタイミングがうまく相手に伝われば、相手は『よしこの機会にどうにか自分も変わりたい』と思ってくれるんだと感じます。パッと心のすき間が空いた時に、スーッとそこへ風を送り込むの。その瞬間に心を開くから。そうしたら、ちょっとクシュクシュとドアを開けて、もうお互いにオープンにいこうよって」

■カフェlalalaを始めたきっかけ

 

「去年の12月22日に20年間やった保護司の退任したのね。それの労を労おうとして暴走族の男の子たちが、食事会をしてくれたんです。それが大サプライズ!いつも個々で逢ったりすることはあったけど、私が気にかけていた暴走族が、女房子供みんな連れて……。もうビックリしました。子どもを膝であやしていたり、寝ている子がいたり、なんかみんな親父やっているの。あれは嬉しかった。みんなそうやって大人になっていくんだね」

「そういうことがあったりすると、やっていてよかったって。そういう人達がまた来れて、逢えて、いろんなことを考えていたらこの場所があったの。自然の流れでね」

 

■喫茶店処がよろず相談所に

 

保護司を引退した後も、中澤さんにアドバイスをもらいたいと『カフェlalala』を訪れる人は後を絶ちません。つい最近も、相談者は刑務所を出てきたばかりで、社会に出たものの、意欲も、働く気力も湧いてこない。父親とはうまくいかず、家には一日帰っただけで、ネットカフェで暮らす毎日。末期がんの母親が、そんな息子を心配し、ネットで調べてから『カフェlalala』を訪れたというケースもあったそうです。

「ここでカレーライス食べて、厚切りのピザトースト食べて。珈琲飲んでミルク飲んで、果物出して、お腹いっぱいになってしゃっべているうちに元気になってくるの」

「とりあえず30分でも、1時間でも、ここを出て『やり直そう』って気になってくれたらいいと思います。とりあえず出て行くときは来た時よりもいい状態で……」

保護司時代には、面談を担当する対象者を自宅に招くたびに、手料理をふるまってきたという中澤さん。その中でも好評だったのがカレーライス。親しみを込め“更生カレー”と呼ぶ人も……。

 

■心を開く“更生カレー”の魅力

 

「この前はね『何月何日に死にます。何月何日に中澤先生のカレーを食べさせてください。12時に来ます。ご用意よろしくお願いします』ってはがきがきが届いた。95%来ないと思ったけど、残りの3%か5%くるかもしれない。そうしたらどうやって対応しようかと思って。同じ日に食べて死にますって言うんですからね」

「ここで食べてから死なれても困るしね。食べてから死にたいのならば、食べさせないほうが生き延びるんじゃないかとか、いろんなことを考えるわけですよ。“更生カレー”というネーミングがついちゃっているわけでしょ。更生カレーの意味合いを知らないで食べさせるわけにはいかないというお兄さんがいたの。『中澤さん、死にたい奴にカレーを食わせることはないよ』って。『勝手に死ねって追い返せって』」

「だけど死ぬ前に食べたいっていうんだったら、私はどうにか食べさせながら、死ぬのを思いとどまらせるような会話をつなげていってと思っているんだけど。『本当にやり直したいと思うんだったら明日来なさい。そうしたら、明日作ってあげる』と言いなさいって。いろんな角度からアドバイスをもらいました。でも、その日、来なかったですね。カレーは作っていましたけど。考えが変わってくれたんだと思います。それはそれでよかった。一番嫌なのは、来なかったけどその日に死んでいたというのですね。カレー食べないうちに……。仕事場ですごく嫌なことがあったって書いてありました。日にちが経って怒りが収まっていたらいいですよね」

 

■心を溶かす言葉はおしゃべりの中から

 

「私はどんな人が来ても、『答えは出ないかもしれない』って言っています。『だけど、話している間に、もしかしてヒントが出るかもしれない』という話をするんだけれど、嬉しいことに、どこかにヒントがあったと言って帰ってくれるのね」

「おしゃべりの中からヒントが生れたり、心を溶かしたり……。心に届く言葉は話している間に出てくるってことはいっぱいあるからね。それは本当に実感しています」

コミュニケーションを大切にするならば、相手と同じ土俵に立たないといけないと、改めて気づかされました。 “心を溶かす言葉はおしゃべりの中から”カフェlalalaにて。

 

 

王冠1この記事は、2019年5月16日に放送した内容を文章化したものです王冠1